衝撃の日。

まさかこんな日が、こんなすぐに来るとは思わなかった。
スタメンに会長の名前がない。
えぇ、と私は言った。一緒にテレビを見ていた母も言った。ついさっきまで、金本は休ませたほうがいい、とさんざん言っていたのに。

そのとき、その偉大な記録が刻まれたとき。
ちょうど地上波では、スタメン発表の場面を中継していた。ハマスタでは、ひとり名前を読み上げられるごとにそのひとのヒッティングマーチを歌う。その場面を映そうとしてくれていた。

4番、サード、新井。

スタンドはどよめいた。驚きの声。

5番、キャッチャー、城島。

またどよめき。「金本は何番なんでしょうか」とアナウンサーが言う。そう、それはスタンドのファンと同じ気持ち。

6番にも、7番にも金本の名前はなく。
8番、レフト、葛城。
そのウグイス嬢のコールに、スタンドのどよめきは悲痛なうめきになった。

いつか、そんな日が来ると思っていた。
金本さんは何度も記録が止まりそうな危機があったから。
でも、真弓監督は「僕らや周りがどうこういうことじゃない」と言い、解説者は「金本が自分から言い出さない限り止められない」と言い、金本さんは「選手が自分から『出ない』なんて言うのはおかしい」と言っていた。
いつか来るとは思いながら、それは10年ぐらい先の、現実味のない遠い話のようにも感じていた。

むしろ私はナゴドでそんな日が来るんじゃないかと少しだけ案じていた。
あの日、ナゴドでレフト前タイムリーツーベースを1イニングに3本も打たれて逆転されたからだ。
だから、今日もまた前日に会長が送球できなかったことをすぐに思い出した。
またタイミングのいいことに、5年ほど前に金本さんが「内野手はできない。打球が怖くて」と言っていた映像を見たところだった。

金本さんがいないタイガースはどうしようもなく違和感があった。
こんな日に限ってレフトフライが多く飛ぶ。
葛城は金本さんのバッティンググローブをつけ、新井は顔がこわばっていた。

8回、葛城が送りバントをしたあとに代打で金本さんが出てきた。
すごい声援。盛り上がり。金本コール。私は悲しくて仕方がなかった。
数々の伝説を残してきた鉄人、11年ぶりの代打でまた伝説を残すのではないかと思ったけど、普通にセカンドゴロだった。


驚いたことに。
こんなにも驚かされ、動揺もしたのに、いざ試合が始まって応援していると、あっけなく終わってしまったようにも感じた。
あぁ会長。
どうか早く。